おもいで。
今でも、前を通ると思い出す
緊張しながら、藁にもすがる思いで開いた扉
そこは私が初めて行った心療内科だった
診てくれたのは院長先生
年配の女性で、身体は細く、
でもなぜかどっしりとした雰囲気で安心出来る人だった
緊張しながらも、何とか話を伝えようとする私
そんな私の話を先生は
途中まで聞いた後、遮ってこう言った
『そんなの、辞めちゃいなさい』
あの時の言葉
それは私にとって、魔法の言葉だった
思えば、先生のあの時の言葉が
私が自分らしく生き始めた
きっかけだったのかもしれない
今でもたまに思い出す
何かに迷った時
苦しい時
どうしたらいいか分からない時
先生の言葉が頭に響く
自分はどうしたいのか
苦しんでまで、頑張る理由はなにか
誰のためにがんばっているのか
なんで今、苦しんでいるのか
決められない理由は、本当に大事なことなのか
7年前の、たった1回、30分の診察
あの時の先生の言葉は
当時の私だけでなく
今に続く私も
ずっとずっと救ってくれている
今でも、前を通ると思い出す
緊張しながら、藁にもすがる思いで開いた扉
そこは私が初めて行った心療内科だった
今その扉を覗いても
先生の姿はもう見えない
私を救ったあの場所は
知らぬ間に無くなっていた